現在聴く事ができる、フルトヴェングラーの最も古い「第九」全曲録音です。断片はこれ以前にも残されているようですが、未聴です。また、ベルリン・フィルとしても、ライヴとはいえ、おそらく初の「第九」全曲録音です。ジョージ6世の戴冠式に行なわれた記念演奏会をEMIが録音していたものです。1936年のトスカニーニ&ニューヨーク・フィルに次ぐ初期のライヴ録音で、音質はストコフスキーやワインガルトナーのスタジオ盤には一歩も二歩も劣りますが、収められている演奏そのものの素晴しさは、この音からも偲ぶ事が出来ます。初めてリリースされたのは1984年で、当時出版されたフルトヴェングラー没後30年記念のムックでも取り上げられていたので良く覚えています。ただ、その時は買えず、最近になってArchipelから復刻されているCDを聴きました。ムックを読んで想像していたような酷い音質ではありませんでしたが、かなりイコライジングしてあるようで、わたしの貧弱な環境だと高域、低域ともにかなり歪みが出る個所があります。フルトヴェングラー独特の休止やテンポの動かし方もすでに聴けますし、第三楽章のテンポの取り方なども後年の演奏と同様なわけですが、フレーズの移行の仕方、歌い方などが後年の演奏に比べるとあっさりとしているように感じました。あっさりというと語弊がありますが、まだまだ戦後の演奏のような思慮深さには欠けるというか……ますます語弊があるじゃん（汗）。そうぢゃなくて、戦後の演奏では控えめになっていったある種のエナジーを存分に発散した演奏に感じました。第四楽章、あの凄まじいテンポのコーダなどは、戴冠式記念演奏という祝祭的な要因が多分に影響しているように思います。